いくえにもつみかさなり

牛小屋ではいつもメタルだ

メタル積層ケースを作った話

この記事はキーボード#2 Advent Calendar 2022の23日目の記事です

12月22日の記事はai03さんの「2022年の振り返りと裏話」でした。

adventar.org

 

この記事は「メタル積層ケースを作った話」です。

Metal is forever....

 

メタル積層ケースって?

キーボード筐体を作る手法の一つに、アクリル板を何枚も重ねてケースにする「アクリル積層ケース」という手法がありますが、今回そのアクリル板を金属板に置き換えた「メタル積層ケース」について考えてみました。アクリル積層ケースのシンプルな設計・構造を踏襲しつつ、素材を金属板にすることでケースの重量も確保する。そんなケースを目指した過程を簡単に説明します。

 

きっかけはキー部2%への参加

先月11月に参加したキー部2%、そこには金属削り出しキーボードがたくさん展示されおり、私は恥ずかしながらそこで初めて金属削り出しキーボードというものを体験しました。普段常用しているアクリル積層ケースとの違いはその重量、重たいキーボードは安定感があり、打鍵音も素晴らしい、すっかりその魅力に取り付かれてしまいました。

当日触ったキーボードの中で特に重かったのはマスロさん設計のMirror ver2、丁寧に持ち上げさせてもらいましたが、本当に本当に重かった。曲線的なデザインも美しく打鍵感も素晴らしかったです。ai03さん、サリチル酸さんといった最前線を走る設計者の方々の金属切削キーボードも触ることができ、本当に良い体験をさせていただきました。

マスロさん設計のMirror ver2(Daihukuさん撮影写真より引用)

重いキーボード作りたい

イベントが終わって一夜明けた帰りの新幹線で「重量のあるキーボードよかったなあ」「重いキーボードを作りたいなあ」と考えるようになりました。どうやって作るか、皆さんと同じように金属削り出し筐体をやるか、、、、けどたいしたアイデアもないのに着手しても、同じことを模倣するだけになるし、それはちょっと危険かなあと感じました。自分のモチベーションを維持するためにも、キムラシンショクバならではのアプローチで重いキーボードを作ることが大事、そんなことを考えながら家に帰りつきました。

 

自分にしかできないこと、メタル積層ケースに行き着いた

考えた結果、自分ならではのアプローチとは、、、、、やはりアクリル積層ケースの設計・デザインの経験を生かすことかなと思いました。今まで作ってきた積層構造をベースにして、重量を持たすため・・・思い切ってパーツを全て金属にする、アクリル積層ケースではなくメタル積層ケース、という考えに行き着きました。

メタル積層ケースはアイデア自体は色んな方が言及していた所ですが、恐らくそこまでやるなら金属切削を選ぶ人が大半なのだと思います。実際にメタル積層ケースを製作した等の報告を見かけませんでした(私が見逃していたのであればすいません)。キー部2%の余韻も重なり、誰もやっていないならば!ということで製作を決めました。

 

重さを得るために、アクリル板は一切使わないことにした

その一方で、今回はケース自体の重さを重視するため、普段のケース製作に使っているアクリル板を一切使わないという選択をしました。積層ケースの設計という自分らしさを生かしつつ、しっかり重いキーボードを作る、アクリルでは目標の重さには届かないと判断しました。

アクリルにはアクリルの良さがあるし、金属には金属のよさがある。アクリルでしかケースを作れない縛りをやっているわけでじゃないので、今回ばかりは目標達成のためアクリルは使わない!そう心に決めました。

ちなみに今後一切アクリルを使わないわけではないですよ笑。今回の目的に沿っただけで、アクリル積層の良さはひきつづきまた別の作品で披露できればと考えています。

 

キーボードはcocot46plusを選んだ

メタル積層ケースを作るキーボードはaki27さんのcocot46plusを選びました。Aki27さんもキー部2%に参加しており、直接ご挨拶した際にいつかcocotシリーズのケースを作りたい旨を相談したところ、後日cocot46plusのボツ基板と各種部品を譲っていただきました。その節は本当にありがとうございました。あと今後海外出向を控えていると聞いたので、ケースを作るならaki27さんが国内にいるうちに早くやらねば、今一番やりたいメタル積層ケースでこれは進めよう、ということで速攻でデザインに着手しました。

aki27.notion.site

 

全体的なデザインをシンプルにした分、スイッチプレートの設計に時間をかけた

前述の通り、基本的な設計はアクリル積層ケースをベースとした積層構造です。全体的なデザインはcocot46plusのプレートデータをベースにfusino360でささっと作っていきました。素材は一番重量がありそうかつ加工依頼ができるステンレスを選びました。

細かなデザインに凝りだすと無限に時間が溶けていくので、今回全体的なデザインはなるべくシンプルにしてさっさと片づけて、打鍵時の柔らかさを得るためリーフプレート形状検討に時間を割きました。リーフプレートは、以前、policiumさん、keebtaroさんと製作したGRIN BOXのそれを参考にしました。

デザイン案。シンプルな断崖絶壁。楽器モチーフも今回は保留。

 

GRIN BOXのリーフプレートはpoliciumさんが設計されたもので、自作のリーフプレートとしては今回が初挑戦でした。Fusion360のシミュレーションモードを用いてスリット幅、長さ等のパラメータを振って検証しました。一定荷重をかけた際、どの部分を押しても一定距離沈み込むようスリット幅と長さを調節しました。スイッチプレートの素材はより柔らかさを得るためアルミを選びました。

設計したリーフプレート。大玉トラックボールを跨ぐスリット。

 

正式発注→納品までほぼ1週間で届いた

製作はお世話になっている切断堂さんに依頼しました。普段はアクリル積層ケースのスイッチプレート(真鍮、アルミ)の製作をお願いしているのですが、今回はメタル積層ケースということで、スイッチプレート含め全てのパーツのカットを依頼しました。各パーツのdxfファイルを送付して見積依頼したら次の日の夕方には見積の回答がきました。値段の詳細は伏せますが、予想よりもはるかに安かった、とだけ言っておきます。アクリル積層ケースの製作費用と比較しても、個人的には全然アリな値段でした。正式発注して1週間後に納品、相変わらず納期はめちゃくちゃはやい。届いた部品たちがこちら。

 

届いた部品たち

スイッチプレート(アルミ1. 5mm)

トッププレート(ステンレス3mm ヘアライン仕上げ)

ケース外周パーツ(ステンレス3mm ヘアライン仕上げ)

ボトムプレート(ステンレス3mm ヘアライン仕上げ)

 

仮組した様子。ヘアラインにしてよかった。

部品が揃ったのでいざ組立へ

PCBのはんだづけと各種MODを施していきます。

 

PCBとスイッチの間にPEフォームを挟む

ボトムプレート側には手芸用綿を敷き詰めて、
プレートのしなりを柔らかく受け止め静音化を図ります

スイッチプレートの裏にはkbdfansのウレタンフォームを貼ります

上下をねじ止めしてスイッチ、キーキャップをはめていきます。
スイッチはGazzew U4t タクタイル、親指部分にDiamond Linear
キーキャップはGMK Noireにしました。

 

そして完成!

 

積層ケースでありながらしっかりとした重量があり、アクリルとはまた違った見た目・質感で面白いですね。ちなみに組立後の重量は2.7kgでした。ひそかに目標としていた重量4.0kgには及ばずな結果となりましたが、2.7kgでも十分ずっしり思い!打鍵時の安定感も抜群で大満足な一品となりました。

計測結果2.7kg。40%キーボードとしては結構重い方かな。

 

 

おまけ

撮影のため外へ持ち出す。やることはひとつ。

お作法として雪に沈めました。キンキンに冷えてやがる。

 

aki27さんにも製作した旨を報告。とても喜んでくださいました😊

2023年も引き続きメタル積層ケースの可能性を探っていこうと思います。

この記事はcocot46plus (メタル積層ケース)で書きました。